大規模な自然災害が発生すると、家屋の損壊や家族、友人の喪失などの直接的な影響に加え、地域に及ぼす様々な被害が地域住民の精神的健康に大きな影響を及ぼします。また、被災後の生活においては、居住先の転居、慣れ親しんだ環境の喪失、人間関係の変化、生活再建など、さまざまなストレスが重なります。これまでの調査から、災害後は地域住民の身体面、および精神面での健康度に影響を及ぼすことがこれまでに報告されています(*1-*4)。そのため、特に自死を予防する取り組みは極めて重要であると考えられます。
・具体的な取り組みとして、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの両方が挙げられます。ハイリスクアプローチとは、すでに精神的な問題を抱えている方や自死のリスクが高いと考えられる方に対し、専門性の高い職種(精神科医、心理士、精神保健福祉士、保健師など)による訪問などの個別的支援のことを言います。また、生活支援員や民生委員などがゲートキーパー養成講座を受講し、一定の技術を取得することで、自死のリスクを早期に把握し、適切な支援につなげることも欠かせないでしょう。
・一方で、ポピュレーションアプローチとは、地域全体のメンタルヘルスを向上させることを目的とした取り組みです。例えば、精神的健康に関する研修や、ストレス対処法を学ぶ機会の提供が挙げられます。また、地域住民が集い、話せる場を設けることは、孤立を予防し、精神的な支えとなることが考えられます。さらに、地域住民への取り組みに加えて、支援者自身のメンタルヘルスにも目を向け、支援に伴う疲労やバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぐための仕組みを整えることも必要です。
みやぎ心のケアセンターの場合はこうでした
・ハイリスクアプローチについては、宮城県と県内の希望する市町村が共同する形で行われた健康調査の項目の中に心の健康度を測るK-6が含まれており、高得点であった住民に対して訪問し、精神的健康の状態に加え、自死のリスクを把握することを心掛けました。健康調査以外でも住民からの直接の相談のなかで、自死をほのめかす発言などがあった場合は、慎重にリスクを確認しました。その結果、自死のリスクが高いと考えられた場合は、適切な支援が実施できるよう、自治体の保健師等の関係機関と連携を取りながら進めました。
・ポピュレーションアプローチについては、地域住民に対しては自治会の集まりやお茶のみの場面を通じて、また働き世代の方々に対しては職場で研修の機会を通じて、うつ病やPTSDといった精神疾患や、ストレスとその対処などのテーマを通じて精神的健康に関する普及啓発を行いしました。
引用・参考文献
*1) Kako M, Arbon P, Mitani S: Disaster Health After The 2011 Great East Japan Earthquake. Prehospital and Disaster Medicine. 2014;29:54–9. doi:10.1017/S1049023X14000028.
*2)本谷亮. 東日本大震災被災者・避難者の健康増進. 行動医学研究. 2013;19:68–74.
*3) 岩本里織, 岡本玲子, 小出恵子, 他: 東日本大震災により被災した自治体職員の被災半年後の語りに見られた身体的精神的健康に影響する苦悩を生じた状況. 日本公衆衛生看護学会誌. 2015;4:21–31.
*4)Nohara M: Impact of the Great East Japan Earthquake and tsunami on health, medical care and public health systems in Iwate Prefecture, Japan, 2011. Western Pacific Surveillance and Response. 2011;2. doi:10.5365/wpsar.v2i4.132.
